AppleのUTC3552AとTA1101B搭載基板の改造
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2024. 9. 8 Ver. 1. 2 LTC1735CS部の改造方法追加
2024. 7.15 Ver. 1. 1 タイトル変更、英文の誤記訂正、回路図の改訂、内容全般の補足
2024. 6.15 Ver. 1. 0 公開初版

1 はじめに
 秋月電子通商で販売しているAppleの用Digital Amp回路基板を購入していました。このプリント回路板はAppleM7963 USB Speaker 用に使用されていたものです。
 忙しくて手を入れていませんでしたが、今回、改造してケースに入れた経過をご紹介します。改造に当たっては下記を考慮しました。
  (1) できるだけ
プリント回路板の改造が最小限となるように工夫する。
  (2) できるだけ
コンパクトに組み立てる。
  (3) 
DAC部分とデジタルアンプ部分をそれぞれ単独で使用可能とする。
  (4) 
ミューティング回路、電源保護回路等を組み込み、過大電源電圧時は動作停止、逆方向電源電圧印加時はヒューズ保護とする。
  (5) 
OPアンプの交換が可能となるようソケット実装とする。

2 改造方法
 最初に完成状態を示します。電源はHARD・OFFでDC12V、2.5Aのスイッチング電源を安価に調達しました。入手時は出力電圧、出力電流以外に、プラグの極性(センター側がプラス、外側がマイナス)と形状(外径5.5mm、センターピンがφ2.1mm用)にも注意します。

全景

 ケースはaitendoで販売されているものです。サイズは90x35x100mmで、つまみは直径20mmのものが適合します。
 四隅のステンレス製六角穴付きボルト(キャップボルト)はホームセンターで容易に手に入ります。

 透明シールで文字入れをしましたが、透明シールが光を反射するのでこの方法は一考の余地があります。
フロントパネル側

 サイズは90x35mmです。
 電源スイッチの上に小さなパイロットランプ用の穴が元々開いています。内側は直径約3mm、外側は直径約1mmの穴が開いています。ここに
2色LEDを取り付けました。
 スイッチは注意して選定しないと穴の位置にレバーがぴったり来ません。
リアパネル側

 左から
  USB2.0コネクタ
  φ3.5用ステレオジャック
  スピーカー用端子
  φ2.1/5.5mmの電源ジャック
です。aitendoで購入しました。プリント配線板も含め、ケースに合うものを選定しないと後刻苦労することになります。この中で最も選定に注意が必要なのはφ3.5用ステレオジャックです。
ピン位置がプリント配線板に合っていないと使用不可です。
 パネルにはまだ文字入れをしていません。四隅はパネル固定用の3mm皿ビスです。
内部配置
 コンパクトに製作するため、aitendoの下記を使用しました。プリント配線板のパターンに部品端子を合わせる必要があるので、部品類も同時購入します

品  名 形  式 特記事項(価格は2024/6現在)
アルミケース C84-100F1 外形寸法:90x35x100mm / 価格:\1045
プリント配線板 P-C84-100 材質:ガラスエポキシFR-4
基板寸法:83.5x99.5x1.2mm
スルーホール:2.54mmピッチ / 穴径0.8mm
価格:\198
φ3.5ステレオジャック PJ-353-B 類似品が多数あるので注意 / 価格:\198
トグルスイッチ SMTS-102-C4 価格:\66
φ2.1/5.5 DCジャック DC-005P 類似品が多数あるので注意 / 価格:\44
USB2.0メスコネクタ UBF-01 価格:\55
2連可変抵抗器、スピーカー端子、ボリュームつまみは、市販のものから選定しました。
 ブロック図です。接続する手持ちのスピーカーが低効率なので、+20dBの増幅器を追加しています。φ3.5のステレオジャックをアンプ入力に使用するか、DAC出力に使用するかを選択できるよう、ジャンパーポストを使用して切り換えられるようにしました。前項の画像の左下です。(赤白のジャンパープラグの部分)

Click on the circuit diagram to download the PDF file.
回路図(左の回路図をクリックするとダウンロードできます。)
 元々のM7963用基板を点線枠内、追加した回路は点線枠外に記載しました。
 改造に当たって基板に手を入れた部分は緑のマーカーで示しました。基板外部との追加接続配線、実装部品の撤去、切断(実際は実装部品を取り外して接続方法を変更するだけでパターンカットはしません。)、ランド間の短絡、部品の追加です。
 部品の取外しはプリント回路板の損傷リスクがありますので、できるだけ避ける方針としました。多くの先人の方々は昇圧回路のU3 LTC1735CSを撤去されていますが、私は改造を最小限とするため、LTC1735CSの2pinを接地することにより動作停止させ、取り外しません。この方法は私が最初のようです。これにより、昇圧用のインダクタL5も取り外さず、そのまま電源フィルター用として利用します。
 一方、止むを得ず撤去したのがJ1のφ3.5ジャックです。これは使用したケースが小さく、ジャックがケースに当たってしまい、物理的にプリント回路板がケースに入らないからです。
 改造に当たってポイントとなる部分を次項以降に紹介します。
プリント回路板の固定

 M7963用プリント回路板をケース内で固定する方法を種々検討した結果、M7963用プリント回路板の貫通穴及びユニバーサルプリント配線板に丸ピンICソケットのピンをはんだ付けし、そのピンを結合することにより固定します。 
 左の画像は丸ピンソケットです。精密ニッパーでプラスチック部分を少しずつ割り、内部のピンだけを取り出します。必要数は8本です。
プリント回路板の固定

 M7963
用プリント回路板四隅の貫通穴に差し込み、はんだ付けします。はんだ付けは難しいです。最初に穴の中にはんだだけを満たすと失敗します。一方、ピンを差し込んでからはんだ付けをしようとすると、熱伝導が悪いのではんだが穴に流れ込みません。要はピンが固定できればよいので、ピンの根元外周部にはんだが乗ればOKです。
プリント回路板の固定

 ピンをユニバーサルボード側にもはんだ付けし、相互に結合することにより、プリント回路板を固定します。ピン同士のはんだ付けはしません。この方法もネット上では私が初めてのようです。
 M7963プリント回路板のピンピッチ(31.6mm及び66.2mm)とユニバーサルボードのピンピッチ(2.54mm)が異なるため、ピンが多少斜めになるのはやむを得ませんが、固定方法としては簡単なほうだと思います。
 それから、白、緑、黒の撚線はUSB回路の配線です。外部雑音を受けにくくするため、撚っておきます。
 
UAC3552A関係回路とTA1101B入力部回路との分離

 C1、C29を取り外しフィルムコンデンサに交換する改造例が紹介されていますが、私はこれらのコンデンサを端子として再利用しました。
 左の画像は改造前です。左側黄色線内がC29、右側黄色線内がC1です。このコンデンサは8.2μFのMLCCなのですが、実測すると周波数特性はあまりよくありません。電解コンデンサよりはましという程度です。外付けのフィルムコンデンサとする方法も検討しましたが、取り敢えずは残してあります。
 MLCCタイプのコンデンサは歪が大きくオーディオ用には不向きと言われていますが、フィルムコンデンサに交換してここだけ強化しても全体としてはそれほど改善しません。全体に対する寄与率を考えて対応すべきでしょう。
コンデンサの取外し
 C1、C29を取り外したところです。取外しは2本のはんだごてで挟むようにすると簡単に取れます。はんだごて1本で行う場合は平らな部分の大きなこて先に交換し、コンデンサ両端を同時加熱して取り外します。取り外せたらランドの不要なはんだははんだ吸い取り線などで簡単に取り除いておきます。
 それぞれのコンデンサ取り付け部分で、左側ランドがDACのUAC3552A出力側、右側ランドがTA1101B入力端子側です。
コンデンサの再取付
 取り外したC1、C29のコンデンサをTA1101B入力端子側ランドで垂直に実装します。ピンセット等でコンデンサを押さえながら先の細いこて先でコンデンサのプリント配線板側を加熱して固定します。


0Ω抵抗の取外しとパターン短絡
 元々の基板では、TA1101Bにミューティングがかけられています。UAC3552Aの21ピン出力、又は、元々ついていた3.5mmフォーンジャックの連動接点により、TA1101Bのミューティングが解除されるようになっています。
 そこで常時ミューティングが解除されるよう、R33位置(左記画像の左の黄緑円)の0Ω抵抗器の撤去とR16パターン(左記画像の右の黄緑円)の短絡を行います。R16位置のランドパターンには多めにはんだを供給して短絡するとともにオーディオグランド配線(次の画像の黒い配線)を接続します。
 R33位置から取りはずした0Ω抵抗器を移設してR16位置に取り付けてもよいのですが、オーディオグランドから配線を取り出すには、ここが一番簡単です。
コンデンサの取付状態
 C1、C29の位置にコンデンサを垂直に実装した状態を横から見たところです。チップコンデンサの上端に外部との接続電線をはんだ付けします。
LTC1735CSの動作停止
 LTC1735CS
の動作を停止するには、すぐ近くに実装されているR7位置の0Ω抵抗器を隣のパターン部に移動するだけです。(黄色円内) これにより、LTC1735CSや周辺部品を外すことが無く改造できます。改造の手間を少なくでき、失敗も少なくなります。
ショットキーバリアダイオードの実装方法
 TA1101B出力端子電圧のアンダーシュートを最小とするため、手持ちの30V、1Aのショットキーバリアダイオード4本を追加しました。プリント回路板が小さいためダイオードの実装場所に苦労します。ダイオードの効果を最大とするには、配線を最短にせよとデータシートに記載されています。そこでユニバーサル基板を切り出し、ダイオードを取り付け、それをTA1101Bの上に両面粘着テープで取り付けました。元のプリント回路板との接続は電線の芯線をほぐしてそのうちの1本を使用しました。TA1101Bのリード線のピッチは0.80mm、幅は0.40mmなのではんだ付けはかなり難しいです。はんだ付けする際、隣同士のリード線をはんだでブリッジしてしまうと修復が極めて困難となります。
 はんだ付けのコツは下記のとおりです。
 (1) はんだ付け直前にカッターの刃ではんだ付けしたいリード線を磨きます。
 (2)最も先端が尖った先端のRが0.2mmのこて先を使用します。
 (3)電線の芯線を予備はんだし、はんだが少し芯線に残るような状態が良いでしょう。
 (4)芯線を紙製養生テープ等でTA1101Bの上に固定します。
 (5)ピンセットで芯線とICのリード線との位置合わせをし、はんだ付けします。
   このとき、はんだは追加せず、芯線の予備はんだのみではんだ付けします。
 (6)TA1101Bの上にダイオード付きユニバーサル基板を両面粘着テープで固定します。
 (7)芯線をユニバーサル基板側と接続します。
 (8)ピンセットで芯線が相互にショートしないよう、位置を整えます。
 再現性を確認するため、2枚目のプリント回路板も改造しましたが、こちらにはダイオードを実装しませんでした。ダイオードが無くとも使用できるかどうかを確認するためです。結果的には
ダイオード無しでも特に問題は起きませんでした。よってダイオードの追加はしなくてもよさそうです。
LEDの実装方法

 LEDで電源ON及び異常状態を表示するため、カソードコモンの
2色発光LEDである手持ちのTLRG101を使用しました。このLEDは直径が4mmで大きすぎます。新規に購入するなら直径3mmのものが良いでしょう。
 電源スイッチの上にユニバーサル基板を両面粘着テープで固定し、LEDを実装しました。異常時は
、正常時はの発光です。カソードコモンなので回路を工夫し、正常時は赤色LEDの電流をバイパスし赤色発光しないようにしました。赤と緑の切り替わり点は半固定抵抗で調整できるようにしてあります。
 ミューティング回路に使用したトランジスタは、厚みが2.54mm以下のものでないと高密度実装できません。手持ちの2SC536SPAを使用しましたが、2SC24582SC27852SC3311等も使用できます。これらのトランジスタの厚みは2.2mm程度です。
ミューティング回路

 
ミューティング用リレーを入れるスペースがなかったので、フォトボルカプラーとMOS-FETによる電子切換方式としました。ミューティング回路ではスイッチング素子はMOS-FETのFDD6035L、ゲートドライブはフォトボルカプラーTLP591Bを使用しましたが動作はまずまずです。摩耗部分がないので将来接点不良になることもないでしょう。MOS-FETリレーも市販されていますが、今回方式に比べ今のところ入手性も悪く価格が高すぎます。

3 評価
 手元に十分な測定器がありませんので下記程度しか判りませんが、低能率スピーカーでも家庭内使用であれば十分な音量です。
 
PC上で音量、バランス、トーン、ラウドネス等の調整ができます。
項  目 数 値 単 位 条  件
無負荷時消費電流 80 mA USB接続無し
無負荷時消費電流 0.21 A USBケーブル接続時
温度上昇 約20 deg 通電開始後、30分の時点で非接触温度計を使用して実測。TA1101Bが最も発熱します。
 発熱を考えると、これ以上小さなケースに実装するのは難しそうです。
 電圧増幅回路のゲインは20dB(×10倍)としましたが、結果的に適切でした。可変抵抗器の角度が時計の10-11時程度で日常使用しています。

 
4 反省点

 (1) TA1101Bの放熱不足
   TA1101Bはプリント配線板放熱となっています。今回そのまま使用していますが、放熱を工夫したほうが良いかもしれません。
   もともとよりも大きな出力で使用していますので、発熱量も増加しています。
   ケース内にプリント回路板を密閉しており熱的に少々心配です。温度上昇は約20deg程度です。
 (2) 電源off時のミューティング回路の動作が不完全
   電源onの時はそれほどではありませんが、off時のpop音が大きいです。ミューティング回路そのものの改善が必要のようです。


5 おわりに
 価格の割には高音質の機器なので気楽に使用する用途に適しています。機会を見てさらに改造したいと思います。

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